宮谷理香ピアノリサイタル 2002
2002年12月6日(金) | ||
会場 | 紀尾井ホール | |
開演 | 19:00 | |
マネジメント | 梶本音楽事務所 03-3574-0550 | |
プログラム | ベートーヴェン | ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 「悲愴」 |
シューマン | 謝肉祭 作品9 〜4つの音にもとづく小景 |
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シューベルト | ピアノ・ソナタ 変ロ長調 D.960 |
心を照らす光を求めて(当日のプログラムより) それは、グエル公園(Park Guel)を訪れた日のことだった。 これまでの人生で見たこともない線の表現。 大きく長く、時には異様とも思えるほど曲がりくねっている。 何なのだろう、これは。 しかし、心地よい。不思議と端正で調和している。 バルセロナの真っ青な空を背景に、太陽の輝きを受けて 大きな自然に抱かれるような命が満ち溢れていた。 時の流れが変わった。 すぐ近くでがやがやと騒ぐ子供たちの声が、遠くに去り、 私の周囲は無音の世界になった。 自分の中で何かが崩れていく・・・ 私はそれに抗うように足早に歩き始めた。 でこぼこしたモザイクの語りかけを聞きながら道を進み、洞窟に沿って歩き、 壁に背を押しあて、時には柱にさえ抱きつき、水たまりを飛びこえて、 蛇のベンチをなでながら、私はその命の鼓動を感じようとした。 突然目の前に広がる空と海、そして、サグラダ・ファミリアの姿。 そうか、ガウディにとってバルセロナは、 この空を父、地中海を母とした子供だったのだ。 私の中で音がした。 これまでの「美」が崩れていく。 「矛盾することや衝突することなく ほどよく調和したもの」? これまで私が審美の規範と思ってきたことは一体何だったのだろう? この日、矛盾と衝突でいっぱいの、大声でわめくかのような表現を、 こころから美しいと感じた。 経験が変わる。美が変わる。 ファンタジーもまた変わる。 変わってゆくもの、そしていつも変わらないもの。 『真・美・善なるものの探究』は、今宵ふたたび、新しい旅立ちを始める。 宮谷理香 |